【日印対話プログラム】 岐路に立つインド―インド政治・経済の潮目を読む

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  • 講師: プラタープ・バーヌ・メータ (政策研究センター所長)
  • コメンテーター&モデレーター: 藤原 帰一 (東京大学大学院法学政治学研究科教授)
  • 日時: 2014年1月16日(木) 6:30 pm
  • 会場: 国際文化会館 岩崎小彌太記念ホール
  • 定員: 200名
  • 用語: 英語/日本語(同時通訳付き)
  • 共催: 国際交流基金
  • 会費: 無料 (要予約)
2014年春に予定されているインド連邦会議下院の総選挙まで半年を切り、予測不可能な混戦が続く中、インド政治の行方に世界が注目しています。本講演では、インド屈指のシンクタンク所長であり、メディアでの論考も多いメータ氏に、2期10年間に及んだ、マンモハン・シン首相率いるインド国民会議派政権の総括をしていただくと同時に、来る総選挙に対する見解と、それが意味するものについてお話しいただきます。また、岐路に立つインド政治が、今後同国の外交や経済に与える影響について、日本との関連にも触れながら、現在のインドの立ち位置について巨視的な観点からお話しいただきます。

略歴:プラタープ・バーヌ・メータ

Photo: Pratap Bhanu Mehtaインドで最も権威のある民間シンクタンクの一つ、政策研究センターの所長。研究分野は政治理論、憲法、インドの社会・政治、ガバナンス、政治経済学、国際情勢などで、これまでにハーバード大学やニューヨーク大学の客員教授、インドのジャワハルラール・ネルー大学の教授などを務めた。公共政策においても幅広く活躍し、インドの国家安全諮問委員会や首相が議長を務めるインド国家知識委員会の役員などを務める。世界経済フォーラム(ダボス会議)のGlobal Governance Councilの委員でもある。2012年に21世紀のインドの外交国防政策の基本原則を提示した報告書『Non-Alignment 2.0』の作成者8名のうちの1人。主著に『The Burden of Democracy』(Penguin 2003)など。

インディアン・エクスプレス紙の客員論説委員としても活躍し、氏の論説は、フィナンシャル・タイムズやテレグラフ、インターナショナル・ヘラルド・トリビューン、ザ・ヒンドゥー、アウトルックなどの各紙で国内外を問わず取り上げられている。また、『American Political Science Review』や『Journal of Democracy』など数多くのジャーナルで編集委員も務める。

メータ氏は、オックスフォード大学セント・ジョンズ・カレッジで政治経済哲学の学位を、プリンストン大学で政治学の博士号を取得。2010年にはMalcolm Adiseshiah賞を、2011年にはインフォシス社会学・政治学賞を受賞。

レポート

インドはいま激しい社会変革の波にさらされている。その背景にある政治的・経済的危機について、政策研究センターのプラタープ・バーヌ・メータ所長は次のように説明した。

まず政治面では、政府の透明性を求める市民の声が高まる中、長らく国を支えてきた政治システムが崩壊しつつある。市民社会の著しい活性化により、これまで政府に幅広く与えられてきた裁量権や秘密主義の行政、社会的説明責任の欠如などが疑問視されるようになった。

しかし、与党・野党を問わず、インド政治を時代錯誤だと認めたがる政党は存在しない。それは「彼ら自身が旧態依然の政治体制に加担しているからだ」と、メータ氏は説明する。本来は変革を訴えるべき野党でさえ、旧体制に取り込まれているため、市民は従来の手法で是正を訴えることができない。そのことがインドの人々、とりわけ中流層の政治離れを引き起こしたという。

ただ、最近の地方選挙で反汚職を掲げる「庶民党(Aam Aadmi Party)」が台頭したことで、政治に対する市民の嫌悪感が多少は和らいだようにも見える。AAPの躍進は、他の政党を反汚職法案の策定へと突き動かし、さらに政治資金は「クリーン」な手法で集めることができるのだと実証してみせた。こうした情勢の変化が追い風となり、来る選挙ではこれまでないがしろにされてきた課題が争点として浮上している。

経済面では、長らく8%以上を誇ってきた年平均成長率が現在では5%に届かず、同時に高いインフレ状態が続いている。メータ氏はその要因として、グローバル経済の減速に加え、主要インフラ部門に対する国内投資の鈍化を挙げた。しかし、「最悪の状況は脱したのではないか」と楽観的な見解も示し、その理由として、もはや旧体制下での政治運営は難しいとの見方が一般的であり、そうした意識が主要な経済改革を迅速に推し進めるよう新政府に強い圧力をかけるからだと述べた。さらに、野党側の政策が十分に明らかでないものの、2014年春の総選挙では改革が最優先課題となっており、それ自体は喜ばしいことだと強調した。

メータ氏の講演に続いて、モデレーターの東京大学・藤原帰一教授が質疑応答の口火を切り、「次の選挙で与党の国民会議派が敗れた場合、それは単なる現行政権への不信任にとどまらず、新たな体制の創造につながるのか」と質問。これに対してメータ氏は、国としての規模の大きさや連邦制といったインド特有の国情に触れ、今後も一進一退が続くだろうとしながらも、いったん方向性が決まれば着実に改革の道をたどるだろうとの見解を示した。さらに会場から、インドにおける民主主義の伝統や、外交政策の優先課題、インドへの投資機会とそのリスクなどに関する質問が寄せられた。

Pratap Bhanu Mehta

日印対話プログラムとは

日印平和条約の締結から60周年を迎えた2012年、国際文化会館と国際交流基金は、日本とインドの間の継続的な対話の「場」を創出するため、新たな人物招聘事業(Japan-India Distinguished Visitors Program)を立ち上げました。本プログラムでは、社会のさまざまな問題の解決に向けて新しい価値やアイデアを提案している、インド国内で影響力のある人物を、年間1~2名、5~7日間程度日本に招聘しています。招聘フェローは、講演会、関連機関の訪問、地方視察などを通して日本の関係者と意見交換やネットワーク構築を行います。