国際文化会館の創設(1952年)に中心的役割を果たした松本重治(1899-1989)と彼の最大の協力・支援者であったジョン D. ロックフェラー三世(1906-1978)の最初の出会い(1929年)と戦後の再会の経緯にまで遡りながら、半世紀以上にわたる国際文化会館の発祥、発展、困難との闘いと克服、そして再生への道を丹念にたどった著作。二人の間の友情と信頼関係が、国際文化会館の設立と運営を通じて深化していくプロセスは、戦後日米関係が再構築されていく過程と軌跡を同じくし、国際文化会館の歴史も基本的には戦後日米関係の枠組みの中で捉えられている。ロックフェラー三世の日本文化に対する強い興味・関心は、やがて日本を超えたアジア諸国の文化へと広がり、それは日米関係を主たる対象として始まった国際文化会館の文化交流活動に、インドをはじめとするアジア諸国との交流が導入されていく刺激ともなった。企画部長、常務理事などとして長期にわたって国際文化会館のプログラムを担った経験と記憶をもとに、国際文化会館を立ち上げた人々の信念と夢の原点を明らかにし、創設者たちの高邁な志が、時代の変化という試練に耐えて、今も国際文化会館の伝統として息づいていることに気付かせてくれる。著者自らが認めているように、本著は国際文化会館「正史」としてではなく、むしろ50-70年代の国際文化会館を彩った人物たちの姿やそれぞれの役割を通してみた主観的な「側面史」であり、逆にそのためにより興味深く読めるストーリーでもある。