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- 講師: ナジーブ・エルカシュ (ジャーナリスト、リサーラ・メディア代表)
- 日時: 2017年10月28日(土) 1:30~3:00 pm
- 会場: 国際文化会館 講堂
- 用語: 日本語(通訳なし)
- 会費: 無料 (要予約)
2011年にアラブ地域に広がった民主化運動「アラブの春」。この運動が、シリアにおいてはなぜ国民の半数以上が難民となる「内戦」にまで発展したのか。シリア人ジャーナリストのエルカシュ氏に、シリアの「理想」と「現実」について、また国際社会が今後、アラブ地域の安定のために果たすべき役割についてお話しいただきます。
1973年シリア生まれ。レバノンのベイルートアメリカン大学卒業(心理学専攻)。英国のロンドンフィルムアカデミーで映画制作を学び、1997年に来日。東京大学大学院、名古屋大学大学院にて映画理論を研究、日本映画のヌーベルバーグ、主に今村昌平を専門にした。制作会社リサーラ・メディアの代表として1998年から日本や北東アジアを取材し、アルアラビーヤやクウェート国営TV、オマーン国営TV、ドバイTV、フランス24、アシャルク・アルアウサト新聞など、アラブ諸国やヨーロッパのメデイアに取材を配信。東日本大震災以降、東北を集中的に取材。BS-TBS【外国人記者は見た!】レギュラーゲスト、『NEWS ZERO』、『テレビ史を揺るがせた100の重大ニュース』、『カツヤマサヒコSHOW』などに出演。アラブ・アジア・ネットワーク(A-Net)の代表として、文化交流の分野でも活動している。2005~08年に東京で開催されたアラブ映画祭(国際交流基金主催)や山形国際ドキュメンタリー映画祭のアドバイザーを務め、2008年には東京でアラブ・フェスティバルを主催し、アラブのジャズ音楽やアニメオタク文化を紹介した。愛知万博、上海万博、韓国の麗水万博では、参加したアラブ諸国の報道事業を担当。2020年に開催される東京五輪とドバイ万博を通じて、五輪や万博などメガイベント分野におけるパブリック・ディプロマシーのあり方を考えている。2006~07年には駐日クウェート大使館における教育・文化事業を担当した。
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レポート
内戦終結への糸口が見えないシリア。報道から伝わる悲惨な映像の数々からは、シリアの豊かな自然や文化、歴史の厚みなど想像すらできない。本講演ではシリア人ジャーナリストのエルカシュ氏が、シリアを含むアラブ世界について解説した。
シリアを理解するには、まずアラブ世界を知ることが必要だというエルカシュ氏。アラブ諸国とはシリアやエジプト、サウジアラビアなど「アラブ連盟」に加盟する21カ国(とパレスチナ解放機構)で構成される国々を指す。しかし、日本では近隣のトルコやイランもアラブと誤認されており、また多くの人がアラブをイスラム教と結び付け、さらに近年急速に経済成長を遂げたサウジやドバイにアラブ地域全体のアイデンティティーを見出す傾向があるという。アラブ世界には実に多様な気候、政治、宗教、歴史が存在することを知ってほしいと説明した。
中でもエルカシュ氏が強調したのが、アラブ人のアイデンティティーが「宗教」ではなく、「言語(アラビア語)」にあるということ。アラブ世界が宗教を軸にした国づくりから、ヨーロッパに倣い言語中心にシフトしていったことに触れ、現代アラブには同じ言語を話す異教徒の人々が共存しているという認識を持つことが肝要だと話した。またアラブ情勢の不安定化は、この『宗教的な動き』と『非宗教的な動き』の長年の対立によるものであり、各国の国づくりの歴史や文化の成り立ちの違いを知ることが、真のアラブ理解につながると語った。
講演の後半では、シリアの現状に触れ、「宗教戦争」と題されることの多いシリア内戦は、むしろ「メディア戦争」であり、ISに注目するあまりアサド政権の残虐行為が取り上げられないことや、アサド大統領の西洋的な服装やパフォーマンスが映し出されることによって国民の大量虐殺がかすんでしまっていることを挙げ、真実がメディアに操作されていると語った。また最後には同国の内戦に介入するイランとロシアの思惑にも触れた。
(本講演の詳細は、2018年に発行予定の「新渡戸国際塾講義録」に収録予定です)