【戦後70周年記念連続シンポジウム~共に考えるこれからの世界と日本】
第1回 「世界の中の中国と新しい日中関係」

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  • 日時: 2015年10月14日(水) 2:00~5:30 pm
  • 会場: 国際文化会館 岩崎小彌太記念ホール 
  • 共催: 国際文化会館、モーリーン・アンド・マイク・マンスフィールド財団
  • 助成: MRAハウス、国際交流基金、東京倶楽部 (50音順)
  • 後援: 朝日新聞社
  • 用語: 日本語/英語(同時通訳あり)
  • 会費: 1,000円 (学生500円、国際文化会館会員無料)

戦後70周年を迎えた今年、国際文化会館とモーリーン・アンド・マイク・マンスフィールド財団は、国内外のさまざまな分野の有識者を招き、全4回にわたる連続シンポジウムを開催します。第1回は、現代の世界における中国を多面的に探り、さらに今後の日中関係について徹底的に討議します。不安定な東アジア情勢の中でも、とりわけ日中関係が揺らいでいますが、本シンポジウムでは、現代における中国の重要性を政治、経済、軍事の側面のみならず知的、文化的文脈から探り、中国をより深く理解するために国内外の識者にお話しいただきます。また、両国間にあるさまざまな問題を乗り越え、新しい東アジアを共に創造するための協力関係をどのように構築できるのか考えます。

【基調講演】
 賈 慶国 (北京大学 国際関係学院院長)
 高原 明生 (東京大学大学院 法学政治学研究科教授)
【パネリスト】
 フランク・ジャヌージ (モーリーン・アンド・マイク・マンスフィールド財団理事長/CEO)
 吉岡 桂子 (朝日新聞編集委員)
【モデレーター】
 川島 真 (東京大学大学院 総合文化研究科教授)

レポート


本講演では基調講演(各40分)に続き、パネリストおよびモデレーターよりコメント(30分)、登壇者全員によるディスカッション、モデレーターによる総括が行われた。ここでは2つの基調講演の要旨のみを紹介する。(動画では基調講演を全編ご紹介)

 

◆基調講演1:賈 慶国教授

北京大学で国際関係学院院長を務める賈慶国教授は、中国の外交政策に見られる矛盾とその背景を分析し、そうした矛盾が日中関係に与える影響を詳説した。

 

ジア教授近年の中国は平和的発展を誓い、国連の権限を弁護し、対話と交渉という平和的方法をもって、国際的紛争に取り組もうとしている。その一方で、南シナ海や東シナ海付近で高圧的な姿勢を見せたり、国連のシリアへの介入を阻止するなど、一貫性の欠ける外交政策が目につく。賈教授は、こうした矛盾をはらむ中国の外交政策の背景には、国力が向上したことで利害が拡大したこと、中国に対する諸外国の行動を攻撃と解釈したことで国内におけるナショナリズムがより強まったこと、中国政府内で何が中国の国益であるかが一致していないこと、成長を続ける中国が「先進国」や「強い国」という新しいアイデンティティーを持ち始めていることがあると詳説した。

 

1978年の改革開放以来、変化を続け今もなお成長過程にある中国は、発展途上国であると同時に先進国であり、また弱い国であると同時に強い国であるというような新旧の相反するアイデンティティーを併せ持つ。賈教授は、心理学的なアプローチを用いてこの二重アイデンティティーを説明しようと試みる。心理学によると、アイデンティティーの危機や葛藤は、子供時代から成人期に移りゆく青年期に最も強く表れる。青年期は、子供としてのアイデンティティーや利害関係を持ちつつ、同時に大人としてのそれも持ち合わせている時期であるため、予測不可能な行動がとられやすい。これを社会に置き換えて考えると、組織が大きく変化する時、新旧の相反するアイデンティティーが組織に共存し、組織はアイデンティティーの危機に直面する。その結果、利害が一致せず、組織の行動が矛盾する。賈教授は中国の外交政策が一貫していない原因も、中国の現在を「青年期」として、また組織の転換期として説明できるのではないかと論じた。

 

賈教授は、今後中国は自分たちをより先進国、富裕国とみなし、そうしたアイデンティティーに沿った利益を求めていくだろうと言う。ただ中国の外交政策に諸外国が苛立ちを覚えているのが現実であり、諸外国は中国の潜在的脅威に対する防御的な処置を取らなければならなくなるかもしれない。しかしそうした処置が翻って中国の外交政策に悪影響を与え、対立へとつながる可能性があると述べた。

 

また、中国政府が日本と共にアジア運命共同体を築くと言いながらも日本と対立するのは、日本が歴史を直視せず、中国と対立するために再武装しようとしていると考えているからだろうと解説。しかし昨今は観光客への門戸解放などによって日本も中国も、経済的な相互依存を深め、大きなメリットを得ている。そうしたことを念頭に日中関係を長期的に考えると、関係は向上する可能性がある。今後も中国に対し日本が平和的政策をとり、世界の平和と安定と繁栄に対してより大きな既得権を中国が持つようになれば、日中関係はさらに良い方向に導かれていくはずだ。争点ばかりをクローズアップさせずに、真の利益はどこにあるのかを考察し、建設的な日中関係を発展させていくことを期待すると展望を述べた。

 

◆基調講演2:高原明生教授 

東京大学大学院の高原明生教授は、賈教授の講演を踏まえた上で、グローバル化と中国の発展が相互に影響し合っていることを指摘し、中国にナショナリズムが台頭した背景や今後の日中関係を築くための方針を詳説した。

 

高原教授東シナ海や南シナ海への進出や、習近平国家主席の「我々は常に平和発展の道を歩むが、正当な権益を放棄したり中核的利益を犠牲にしたりすることは絶対にしない」という発言などに見られる昨今の中国の単独行動主義の背景には、内政と外交とが連動して国内でナショナリズムが高まったことがあると高原教授は解説する。一党支配体制をとる中国共産党は、支配の正当性を国民に認めてもらうために経済発展を掲げてきたが、それだけでは不十分になってきたことでナショナリズムに依存するようになった。また胡錦濤政権下の2007~8年以降、改革をするのかしないのか、人権を普遍的価値と認めるのかどうかというような大きな問題に対して、共産党内での意見の分岐が表面化してきている。そうした党内をまとめるために、ナショナリズムに頼るようになったこともある。

 

続いて高原教授は、新しい日中関係を築くための指針として、日中関係には強靭な面、脆弱な面の両面があるということを確認し、両国で協力して強靭な面(経済相互依存、非伝統的安全保障、PM2.5などの環境問題など)を促進し、美術やアニメなどを通じての文化面での結び付きや、日本のNGOなどを介した社会的交流を強めていく必要があると主張した。

 

一方、脆弱な面(歴史認識の相違や尖閣諸島問題)に関しては、管理して抑制する必要がある。日中両国のためにも、日本は中国の物理的な圧力に妥協してはいけない。中国国内ではさまざまな意見が対立しており、外交問題に対して軍事力を用いることを奨励する人もいれば、国際法を順守して紛争を解決していくべきという国際主義者や穏健論者もいるからだ。日本は後者と連携するべきであり、中国がマクロ的に発展していることをふまえ、中国の経済力をどのように活用し、アジアのさらなる発展のために互いにどう協力できるかを考えるべき。リスクヘッジとして抑止力を高めることも大事だが、それだけでは軍拡競争になるので、アメリカも含めた防衛協力を進めていくことが重要で、近隣諸国と協力して、国際法に基づいた国際秩序を築き守っていくべきだという見解を述べた。

 

さらに高原教授は、中国では富国強兵パラダイムが多くの人の思考を縛っている面があるが、その中で、国際的規範の共有を進めることが課題であると指摘した。そのためにはホームステイなどによる留学生の受け入れや、シンポジウムなど知識交流の機会を増やす必要がある。情報の偏りから生まれる歴史認識のギャップも大きく、両国はそうした状況を前提に対応することが大切だという。また公論外交(public diplomacy)の重要性にも触れ、日本政府は対外発信に重きを置き、正面から日本側の心情や情報をどう中国側に伝えるのかということに真剣に取り組む必要があると主張した。また、両国において歴史教育を強化する重要性にも言及し、双方の努力がなければ日中の子供たちが共に未来をつくることは難しいと述べ、講演を締めくくった。

 

戦後・中国

 

賈 慶国(ジア・チングオ)/ 北京大学 国際関係学院院長
写真:JiaQingguoコーネル大学にて博士号取得。専門は、国際政治、中米関係、中台関係、中国の政治・外交で、これらの分野における著書多数。これまで北京第二外国語学院、コーネル大学、カリフォルニア大学サンディエゴ校、シドニー大学などで教鞭をとる。1996 年に北京大学国際関係学院教授に就任し、現在同学院院長を務める。現職に加え、中国政治協商会議全国委員会常務委員会および外交委員会委員、中国民主同盟常務委員会委員、中国のアメリカ学会副会長、台湾学会の理事なども務める。
高原 明生 / 東京大学大学院 法学政治学研究科教授
写真:高原 明生1981年東京大学法学部卒、サセックス大学にて博士号取得。専門は現代中国政治・東アジア政治。立教大学教授などを経て2005年より現職。在中国日本大使館専門調査員、ハーバード大学客員研究員、アジア政経学会理事長、新日中友好21世紀委員会委員(日本側秘書長)、北京大学客員研究員などを歴任。東京財団上席研究員、日本国際問題研究所客員研究員なども務める。近著『シリーズ中国近現代史⑤ 開発主義の時代へ1972-2014』(共著、岩波新書、2014年)をはじめ、日中関係を論じた著書を多数執筆。日本を代表する中国研究の泰斗。
フランク・ジャヌージ / モーリーン・アンド・マイク・マンスフィールド財団理事長/CEO
写真:フランク・ジャヌージ2014年より現職。現職以前はアムネスティ・インターナショナル米国事務局次長。1997年から2012年までは米国上院外交委員会東アジアおよび太平洋地域担当の政策部長。2006年から07年には、外交問題評議会の日立国際問題フェローとして日本に滞在し、東京の世界平和研究所訪問研究員および慶應義塾大学客員講師を務める。米国上院外交委員会在籍前は、米国国務省情報・調査局アナリストして、9年間勤務。エール大学より学士(歴史学)、ハーバード大学ケネディ行政大学院より公共政策修士取得。
吉岡 桂子 / 朝日新聞編集委員
写真:吉岡 桂子1964年生まれ。岡山大学法学部卒。山陽放送アナウンス部を経て、89年朝日新聞社入社。和歌山支局で記者生活を始め、東京、大阪で経済分野を取材したのち、2013年春まで通算7年あまり中国特派員(北京・上海)。1999年夏から1年間、対外経済貿易大学(北京)で語学研修、2007年秋から1年間、米戦略国際問題研究所(CSIS)客員研究員。著書に『問答有用 中国改革派19人に聞く』(岩波書店、2013年)、『愛国経済 中国の全球化』(朝日新聞出版、2008年)。
川島 真 / 東京大学大学院 総合文化研究科教授
写真:川島 真東京大学にて博士号(文学)取得。専門は中国・台湾の政治外交史、国際関係史。1998年北海道大学法学部助教授、2006年東京大学大学院総合文化研究科准教授を経て、2015年より同教授。世界平和研究所上席研究員、nippon.com 編集長、21世紀構想懇談会委員などを兼任。主著に『中国近代外交の形成』(名古屋大学出版会、2004年、サントリー学芸賞受賞)、『近代中国をめぐる国際政治』(編著、中央公論新社、2014年)など。