【アメリカ・カナダ大学連合日本研究センター・レクチャー・シリーズ】
日本列島万華鏡~生物多様性をフィールドから考える

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  • 講師: あん・まくどなるど (環境歴史学者/上智大学大学院教授)
  • 日時: 2016年2月2日(火) 6:00~7:30 pm
  • 会場: 国際文化会館 岩崎小彌太記念ホール (会場が講堂から変更になりました)
  • 共催: 国際文化会館、アメリカ・カナダ大学連合日本研究センター(IUC)、日本財団
  • 用語: 日本語 (通訳なし)
  • 会費: 無料 (要予約)

四方を海に囲まれ、起伏豊かな地形に縁どられた日本列島は、実にさまざまな生物や自然環境を有しています。気候、風土の移り変わりとともに自然の姿が変わり、そこに暮らす人々の営みも変化していく。地球環境の保全が喫緊の課題となっている中、私たちは列島各地の里山・里海の暮らしから、いま何を学ぶことができるでしょうか。
カナダ出身の環境歴史学者で、20年以上にわたり日本の農村・漁村のフィールドワークを続けてきた、あん・まくどなるど教授に、日本列島の生物・文化的多様性、農山漁村が直面している諸課題、国の政策のあり方などをお話しいただきます。

略歴: あん・まくどなるど

an-makudonarudo環境歴史学者。1991年ブリティッシュ・コロンビア大学東洋学部日本語科卒、アメリカ・カナダ大学連合日本研究センターにて学ぶ。以来、日本全国での野外調査を通して民族学、農村社会、環境問題などを研究。農林水産省、環境省、官邸などの有識者委員会に多数携わり、2008年には国連大学高等研究所いしかわ・かなざわオペレーティング・ユニットの所長として、政策立案者と現場をつなぐ役割を担った。上智大学講師を経て、2011年より同大学大学院地球環境学研究科教授に就任。専門はグローバル環境政策論。著書に『日本の農漁村とわたし』(清水弘文堂書房、2007年)、『気候変動列島ウォッチ』(清水弘文堂書房、2010年)など。

レポート

カナダ出身の環境歴史学者で、20年以上にわたり日本の農山漁村のフィールドワークを続けてきた、あん・まくどなるど教授。軽ワゴン車で日本全国の海岸線の約8割を走破、大学で教べんを執る今も、海女と一緒に海に潜るなど現場主義は変わらない。国内外の環境会合に有識者として多数携わり、地方の声と政策形成の場を結んできた同教授が、日本列島の生物・文化的多様性、気候変動によって農山漁村が直面する課題、政策のあり方などを語った。

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◆気候変動に直面する食の現場
気候変動とともにどう生きていくか――この問題を研究するにあたり、北から南まで多様な自然・文化を持つ日本列島は最高の舞台だと語る、まくどなるど教授。「北から南へ海岸沿いを5キロ走るだけで海が変わる。海が変わると船が変わり、漁法が変わり、そこに暮らす人々の生活リズムが変わる。日本の海岸沿いには実に素晴らしい世界が広がっています」。

気候変動の影響を特に大きく受けているのが、食料関係だという。温暖化が進むと植物の生息域が北上していく。すると例えば、りんご農家が柑橘系への切り替えを余儀なくされる。「でもそれは言うほど簡単なことではないんです。ものになるには、少なくとも10年間はかかる。その間、農家はどうやって生計を立てればいいのでしょう?国は補助金を出し続けるべきでしょうか?」

昨今は米の品種改良も各地で盛んに行われている。温暖化に強い米をと、九州で開発された「にこまる」はその一例。「雨のパターンが変わり、日照時間が変わってきたことで米の品質が下がり、九州では2004~5年あたりから二等米が主流になってしまった」と、まくどなるど教授。これからの日本社会はこうした問題を抱えていくことになる。

◆科学と伝統知識の融合
米の品種改良はむしろ技術進歩による成功例とも言えるが、科学は万能かといえば、決してそうではない。「一人一人の生活はもちろん、国全体で脆弱性が高い場所では、ハイテクを持っていっても、それを維持管理できる人的・経済的資本がないのです」。実際、人間が一年間に食べているものの7割は、脆弱な小規模農業・漁業者によって生産されているという。

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そこで、まくどなるど教授が注目しているのが、伝統知識と科学を融合させたソリューションの可能性だ。「人間は長きにわたり自然と対話しながら、ときに自然と闘いながら学んできた伝統知識を持っています。その可能性を気候変動への適応や生物多様性保全に活かすことができたら」。

◆研究成果を途上国の将来へ
一つの取り組みが、能登・舳倉島の海女への調査。海の中を知り尽くす海女たちに、季節ごとの海中の様子や収穫マッピングの変化について4年にわたり聞き取り調査を重ね、石川県の水産課とともに環境保全型漁業の政策づくりに役立てようとしている。最後にまくどなるど教授は「将来的には日本の環境・食糧・伝統に関する研究成果を、発展途上国の将来に生かしたい」と抱負を語った。


*このレクチャーシリーズは日本財団の助成によるフェロー・プログラムの一環として実施されています。