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- 講師: ケント・カルダー (ジョンズ・ホプキンス大学高等国際問題研究大学院副学長、ライシャワー東アジア研究所所長)
- 日時: 2018年12月13日(木) 6:00~7:30 pm
- 会場: 国際文化会館 岩崎小彌太記念ホール
- 共催: 国際文化会館、アメリカ・カナダ大学連合日本研究センター(IUC)、日本財団
- 用語: 日本語 (通訳なし)
- 会費: 無料 (要予約)
“グローバル政治都市”ワシントンDCには、世界各国からさまざまな非政府組織やシンクタンク、国際機関が集結しています。そのワシントンで近年著しく存在感を高めているのが、アジアの国々です。こうしたアジアの役割の変化は、新興国がいかにしてグローバルガバナンス構造に適合していくか、という問題をも提起しています。アジア諸国が、ワシントンにおける注目度と影響力をどのように増幅させ、さらにそれがアメリカの中枢機能の政策決定にどう影響しているのか、また各国の外交戦略とその意義について、カルダー教授が最新動向を考察します。
略歴: ケント・カルダー
ハーバード大学大学院でエドウィン・ライシャワー教授のもと日本政治・経済を研究中の1974~75年にアメリカ・カナダ大学連合日本研究センターで日本語を学ぶ。1979年博士号取得後、ハーバード大学講師兼日米プログラムの初代事務局長を務め、81年よりプリンストン大学で教べんを執る傍ら、戦略国際問題研究所(CSIS)日本部長、駐日米国大使特別補佐官などを歴任。2003年ジョンズ・ホプキンス大学高等国際問題研究大学院に着任、2018年7月より同副学長。昨年米国で出版した『Circles of Compensation: Economic Growth and the Globalization of Japan』(スタンフォード大学出版、2017年)をはじめ、『ワシントンの中のアジア』(中央公論新社、2014年)など東アジアの政治経済、日本政治、日米関係の著作多数。2014年に旭日中綬章受章。
レポート
日米間の対話の継続のために、相互理解がなにより重要だと考えるカルダー教授。首都ワシントンDCの政治のダイナミクスを知ることは、相互理解を深めることにつながるという。50年にもわたってワシントンの変化を見てきた教授が、同市の特徴、そして急速に存在感を増すアジア諸国の動向について解説した。
政府への多様なアクセスポイント
各国の大使館や国際機関が集まり、世界情勢の中心として存在するグローバル政治都市ワシントンDC。カルダー教授によると、同市はまずコミュニティが発展した後、1920年代から第二次大戦直後にかけて政府が発展したという経緯から、政府がすべてを統括するのではなく、政府以外の組織も政策過程に積極的に参加するオープンな都市であることが特徴だという。
第二次大戦後に米国が大国化し、国際的影響力を増したことで、ワシントンDCには政府への影響力を持つ民間機関、つまり法律事務所、ロビイスト、メディア、NGO、シンクタンク、その他の知識産業や多国籍機関が集積した。こうした非政府機関は、政策過程へ影響力を行使するための関係作りをさまざまなレベルで行っており、こうした成り立ちのもとで情報が集積するグローバル政治都市へと発展していったと教授は述べる。(この影響力をカルダー教授は「Penumbra(半影)」と呼んでいる。)
非政府機関による影響力に関して教授が特に注目するのが、政権交代の度に元政府高官がシンクタンクや大学に入ったり、逆に大学教授やシンクタンクの研究員が新政権に入ったりする点である。このいわゆる「回転ドア」式の入れ替えプロセスは、政府外部の人間にとってある意味チャンスと言える。政治情勢や政策過程の情報収集を効果的に行うことができるだけでなく、外国との情報交換も盛んな政治コミュニティで人脈を開拓することで、政策過程への影響力を強めることができるからだ。こうして、ワシントンDCにおける政策過程へのアクセスポイントは、従来の外交官やロビイスト経由といった枠組みを超えたものとなり、強い影響力を及ぼすようになったと教授は指摘する。
アジア諸国のプレゼンスが増大
ワシントンDCは時代を反映して常に変化してきたが、ここ10年の変化はとりわけ著しく、外国の影響力が急増している。1980年代から外国生まれの人口が増加し、2016年にはそのうち38%がアジア生まれ。大使館やロビイストの数も増え、誰もがどこかで海外とつながっているような傾向があるそうだ。アジア諸国は貿易や安全保障面での米国依存度が高いため、同市で影響力を持つことを重視しており、特に過去20年間は日韓中による影響力強化に向けた競争が激しくなっているとカルダー教授は分析する。
情報化時代に伴いニュース発信が速くなった今、政策過程に影響力を持つには、現場の流れを早く掴み行動することが大切であり、そのためにも「ワシントンの中のプレゼンス(を高め)、直接ワシントンでコンタクト(を取ること)」が重要だと教授は強調する。
近年、広報予算を減らしてきた日本政府は、他国に遅れを取っていたが、政権が安定した2013年以降は予算も増え、より効果的になってきたと言う。経済面でのつながりから、ニューヨークをより重視するという傾向も変わり始め、2015年には経団連がワシントンの米国事務所を再開、沖縄県もワシントン事務所を作るなど、プレゼンスの重要性が少しずつ理解されつつあるようだとカルダー教授は見る。
小国が影響力を持ち得る
2014年の自著『ワシントンの中のアジア―グローバル政治都市での攻防』で、アジア諸国の同市へのアプローチと影響力を発表したカルダー教授。研究の際に驚いたのは、国の影響力は実に多様であること、そして「一番大きい国の影響力が大きいとは限らない」ことだったそうだ。
情報化時代を反映して米国政策の変化のスピードが増す中、自らの政策変更を弾力的にできる国や組織の方が成功しやすいと言う。シンガポールや韓国を例に、いかに小国が大国よりも強い影響力を持ち得るか説明した。
良好な日米関係を育むために
トランプ大統領とポピュリストに対応するため、アジア諸国の広報予算は増加傾向にあるが、まだその効果はわかっていない。彼が不確実性を意図的に交渉の種に使っているなら、各国は情報収集能力の向上を求められると語るカルダー教授。そのためにも、ワシントンのダイナミクスについての理解が何より大切であり、何もしなければ日米関係は悪化するだろうと、警鐘を鳴らした。
*このレクチャーシリーズは日本財団の助成によるフェロー・プログラムの一環として実施されます。